13日の金曜美術館|アトリエ如瓶|ブログ・ヘッダ画像

このブログは、世の中の様々な「黙っていられん!!」ことを書くことを主旨としております。お客様や、お客様になるかも知れない方が読む可能性のあるブログではありますが、(書き手が勝手に決めたものながら)主旨を尊重し、常体文で記述して参ります。何卒お含みおきの上、お読みくださいますようお願いいたします。

気がつけば被災地・其の03

私が無力感に打ちひしがれている間も、TVの報道では一貫して震災の凄惨さを報じるものが中心だったが、円高が進んでいて日本の経済にも大きな影響を与えていたりとか、震災の影響を受けて倒産する会社が増えているなどの、二次的な影響をも差し挟むようになっていた。
3月までいた大塚の会社で、唯一アドレスの交換をしていた人から、5月一杯で会社は倒産することになった……と、メールが届いた。
その会社の倒産は直接的に震災の影響を受けたものとは言えないかも知れないけれど、幾つかの理由の一つであったのは間違いないだろう。
結局、2ヶ月早かっただけで、私は求職活動を強いられる立場になっていたのだ。

畳みかけるように届く、暗い知らせの中、私はやはり被災地へ行くことを考えていた。
派遣会社からのオファーはストップしていたし、以前の求職期間と同様に、全ての表現活動に対しての意欲も湧かない。ただひたすらに時間だけが費やされていく日々に、為す術なく苛立ち、正気を失わずにいるのが精一杯のような日々の中、被災地へ行くことが、紛れもなく「今自分が出来ること」だと思っていたのだ。

そんな中、日々自宅にこもりきりで、付けっぱなしのTVの報道が、ボランティアを対象にしたものばかりであることにふと気が付く。こうした災害の復旧に関して、業者は何もしていないのだろうか? ……と、疑問に思う。
確かに、津波の被害を受けて、営業出来ない業者もあるだろうけれど、東北地方の全ての業者が動けないわけではないだろうし、近隣の県にだって業者はあるはずで、それらが何もしていないとは考えにくい。
そうだ! 仕事として現地へ赴き、休みの日でもあるならそれを利用して似顔絵描きのボランティアをすれば良いではないか!

考えついた私は、さっそくネットを利用して被災地での仕事の募集がないかを探してみた。何か、一縷の光明が差したような気持ちであった。

検索してみたところ、被災地の復興のための人手を求める業者は多数見付かった。案の定、報道されていないだけだったようだ。
私からしてみれば、休みの日や仕事が早く終わった日などの時間を利用して、本来の目的である似顔絵描きのボランティアを遂行できさえすれば、仕事は何でも良かった。少々ハードだろうと、変わり果てた姿となったご遺体と対面しようとも、日給が5,000円でも、三食付かなくても、本当に何でも良かったのだ。この中から雇ってくれる会社が見付かりさえすれば……。

だが、話はそれほど簡単ではなかった。

検索で引っかかった求人は、仮設住宅の建設現場での作業や、瓦礫撤去の仕事がほとんどだった。
宿泊・3食付きで日給は8,000~12,000円程度。初心者でも可という中、この待遇・日給は、無一文同然の私には心強いが、それだけ業務がハードだということでもあるのだろう。
阪神大震災の時の恩返しという意味あいもあってか、関西の業者が軒並み10,000円以上の日給を提示していたのが印象的だった。

だが……詳細について観てみたのだが、3カ月以上でないとダメだとか、保険証を持っていないとダメだとか、話を聞くまでもなく門前払いな募集が意外と多いのだ。
東京において独り暮らしをしていて、大家さんに手渡しで家賃を払うことになっている私に、3カ月という長期間にわたってアパートを空けるのはやはり無理があるし、保険証は派遣会社に返却済みで、手元にない。
どちらも対処のしようが無いとは言えないのだが、夏場の3カ月には思わぬところにカビが生えたりするし、3カ月後だけ必要な国保に加入し、晴れて仕事が見付かったらまた返却……なんて手間は出来るだけ避けたい。

期間は1カ月程度で良くて、保険証が必要のない業者もチラホラ見付かったが、とりあえず様子を聞こうと思って電話をしてみると、「集合地からバスに乗って被災地へ向かうので、独りだけバイクで来るなんていうのは困る」と、拒否。休日の似顔絵描きの単独行動のため、寝泊まりするところから近いとは限らない似顔絵描きができる場所へ向かうのに、どうしても自分の足は必要だったのだ。
こちらはそれが叶わないのであれば、被災地へ行ってまで仕事をする意味は半減ので、そういう業者の世話にはなれない。
被災地で復興するために仕事するのだから、バスでだって行く意味は充分あるのだろうけれど、万が一避難所が宿泊先や現場から半日がかりだったりするようなら、やはり本来の目的を為し難いだろう。やはりそこだけは絵描きとしての意地を通したい。

その後も、見付け次第に何件かの業者に電話してみたが、
「そちらの希望は分かったが、今のところ宿の手配が出来ておらず、6月の中旬くらいになればハッキリするので、サイトからフォームで登録だけしておいて欲しい」
とか、
「宿の手配が難しい状況なので、来週また電話して欲しい。政府の対応がもう少しキッチリしていてくれればこんなことはないのだけど」
とかいう業者もあった。
私がそんな事をしていたのは、連休前の4月下旬。TVでも、業者や殺到するボランティアと復興の手助けの意味も含めて訪れようとする観光客とで、宿やホテルの空室の取り合いになっている様子も報道されていた。
そんな実情に触れてみて、メディアや野党は復旧の遅れを菅政権の責任だと叩き通しだが、予測も正確に立てられないほどに被害が大きく、復旧に必要な場所や土地や人材すら確保できないために、一向に捗らないのではないのだろうか……という気がしてきた。
いや、与党のことを弁護しようと言うのではないのだけれど。

それにしても、電話してみた業者は、ダメと待てとを紋切り型に返してくるばかりで、なかなか話を進められるところが見付からない。
確かに業者が募集を出しているのは確かだが、これだけ復興の遅れが取り沙汰されているというのに、ネットで見付かる数にしては業者が少なくないだろうか……という気がしてくる。
一度サイトで登録した業者からの返事を待ちながらも、さらにネットで検索を続けていると、とある掲示板のサイトに行き着いた。

ハッキリ言って私は愕然とした。
見付けた掲示板は、被災地に行って仕事をしてきた、仕事をしたい……という人たちが、忌憚のない意見や体験談を交わし合おうというものだったのだ。
恐らくは数百件に及ぼうかという投稿の全てを読んだわけではないけれど、最近の200件ほど読んだ中のおよそ6割くらいだろうか、
「1カ月くらい返事を待たされた挙げ句、話を白紙に戻された」
とか、
「もう2カ月返事を待っているけれど、一向に返事が来ない。もう貯金も尽きそうだ」
などといった、コメントがひしめいていたのであった。
要するに、善意ありきで仕事を求めているのに、とりあえずは頭数だけ確保しておこうとする人材派遣会社のえげつないやり方でひどい目に遭っている人が多いようなのだ。
私が連絡を取ってみた業者も、所在地や会社名からして、明らかに派遣会社と思われるところと、地元の業者らしきところとであったが、ダメも待ても返答は同じであり、実情は違えど、人を送りたいけれど住まわせる場所も送る先もないという実情が見えてきた。
幾ら被害が大きいとはいえ、派遣会社でも上手く使って人を集めさせようとしない国も国だし、工事の予定すらハッキリしていないのに、人だけ集めようとする派遣会社も派遣会社だ。こんな事では早期復興なんて夢のまた夢だ。

ただ、そうした書き込みの中にも、
「既に働いてきたが、激務だった」
とか、
「明日、(確か中国地方から)バイクで被災地に向かう」
とかいった、私としては心強い書き込みもチラホラ見受けられた。投稿された文面が全て本当だと信じるならば……だけれど。
そうとなれば、派遣会社がアテにならないのだから、瓦礫撤去を請け負っている業者に絞って連絡を取り続けるしかないか……と、私は方針を絞り込んだ。

電話で話を聞いてみた業者の中に、一件だけ思い当たる業者があったのを思い出した私は、「来週また電話くれ」と返答をくれた業者の指示通り、翌週に電話を入れた。宿泊費は持つけれど食費は出ず、日給も7,500円という待遇面では物足りないものがあったのだが、そんな事はもはやどうでもいい。

この業者の人事担当者は、埼玉の本社から石巻市に出向していて、
「震災からそれなりに時間が経っているので、普通に走っていてタイヤがパンクするようなことはない」
とか、
「避難所によっては、ストレスのせいで避難者がピリピリしているところや、管理している団体の都合で(似顔絵のボランティアなどは)受け入れてくれないところもあり得るから、現地で情報収集してから行った方がよい」
とか、本来の業務とは無関係なこちらの問いに親切に答えてくれていたりもしたのだ。
「宿の手配が出来ていないと言うのであれば、テントもキャンプ用具もあるから、場所さえあればテント暮らしでも構わないのですが」と私が聞くと、
「いや、今は治安が悪くて、テントを荒らされたとかの話も聞くので、それは薦められない」
とまで教えてくれた。暴動は起きないが、盗難は起きている……それが、世界的にも評価された「我慢強い国・日本」の実態のようだ。

さておき、電話が繋がり、話を聞いてみると、
「引き続き宿の手配が難航していて、6月の中旬くらいには何とかなりそうだから、その頃にまた電話して欲しい」
との返事だった。
他の業者も言っていたように、6月の中旬ってヤツが、宿泊先に空きが出る頃……つまり、第一弾の作業者たちが引き上げる時期ということなのだろうか。
結局、あと2週間待てってか。

新規に募集を出している業者がないかとか、一度打ちきった募集の第2弾がないかとかを、改めて検索したり、次の仕事として再検討しているWebの仕事のお勉強をしたりとかして6月の中旬くらいまで待った私は、改めて担当者の携帯電話宛に連絡を取ってみた。
すると、帰ってきた返事は……。
「申し訳ないですけど、今回は(人数が)一杯になってしまったんですよ」

ぐっ、結局ここも同じだったのか。派遣会社でも業者でも、結果は同じなのか。
結局私もさきの掲示板の6割の方になってしまったようだった。

万策尽きた……そんな絶望感に打ちひしがれた私は、こう思った。
「それなりの資格が……少なくとも資金と時間に余裕がある者でないと、困っている人たちに救いの手を差し伸べることすらままならないって事か」
……と。

………つづく

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